「みんなのカバンの中には、いったいどんなモノが入っているのだろう?」という疑問からスタートしたこの企画。カバンの中身が好きな人に送る「あんなモノ」から「こんなモノ」まで、リアルなユーザーのカバンの中身を紹介しよう。
今回は日本を紹介する台湾のカルチャー誌『秋刀魚(サンマ)』の編集長 Eva さんのカバンの中身やライフスタイルについて取材した。28歳の若手編集長のカバンの中には、いったいどんなアイテムが入っているのだろうか。
※この記事は2018年に公開した記事を再編集して掲載しています
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台湾で人気のカルチャー誌『秋刀魚』について
『秋刀魚(チョウダオユーとも呼ぶ)』は、ちょっとニッチな日本を中国語で紹介する台湾の人気カルチャー誌。隔月で「午後9時以降の東京の遊び方」や「銀座線沿いの美味しいカレー店」など、日本人の僕でも「こんなところを取材しているのか! 」と、つい気になってしまう内容を紹介している。
Eva さんが大学の友人たちと一緒に雑誌を作りたいという思いからスタートし、2014年にクラウドファンディングでの資金調達を経て創刊した。「台湾では日本の文化が人気なのに関わらず専門誌が存在しない」という点に着目し人気を集め、台湾はもちろん、現在では香港やシンガポール、マレーシアなどに展開している人気媒体だ。
秋刀魚の編集部があるのは、台湾の台北市の閑静な住宅街。日本人も多く通う師範大学のすぐそば。「お待ちしていました~! 中にどうぞ」と迎え入れてくれたのは、秋刀魚の編集長 Eva さん。
秋刀魚の Facebook ページへの突撃メッセージにも関わらず、快く取材を受けてくれたことに感謝。
どこかレトロな雰囲気が漂う編集部。アットホームな雰囲気の編集部には編集者やイラストレーターが数名在籍する。皆20代から30代前半の若手な印象。日本語が話せるスタッフも在籍している。
「なぜ雑誌を作ろうと思ったの? 」「新卒未経験で事業を立ち上げるって怖くなかった? 」という質問は記事の後半で紹介するとして、秋刀魚の若手編集長として活躍する Eva さんのカバンの中身を紹介していこう。
『秋刀魚』編集長 Eva さんのカバンの中身
Eva さんのカバンの中身はこんな感じ。カラフルで女子のカバンの中身という雰囲気ながら、原稿や HDD など、ところどころに編集者ならではのアイテムが随所に見られるのが面白い。
「仕事の道具はとことん機能性を重視する」という Eva さんのアイテムをそれぞれ紹介しよう。
MacBook Pro(2012年モデル)
「愛着があってこれで仕事をするのが安心するの」と話す Eva さんが愛用する MacBook Pro は、CDドライブが備わっている 2012年モデル。編集者として働く前からもう6年ほど使っているが、当時からのデータをすべてこの MacBook Pro に保管しているため仕事がしやすいという。
CDプレーヤー部分には HDD を換装して使っているそうだ。さまざまなステッカーを貼っているが、台湾のメディアだったり、秋刀魚を創刊する際に出資してくれた企業のステッカーを貼っているとのこと。
iPhone X
Eva さんが愛用するスマートフォンは iPhone X。MacBook Pro は買い替えたくないけど、iPhone は世代ごとにカメラが進化したり容量が大きくなったりするので必ず最新型を購入しているそうだ。
「iPhone で電車に乗れる Suica がめっちゃ便利! 」と嬉しそうに話してくれた。
今読んでいる本や文房具など
取材の道具として、いつも名刺入れやペンケース、モレスキンを持ち歩く。また、いつも本を読んでいるということで、今回は有名な編集者都築 響一(つづき きょういち)さんの著書『圏外編集者』を読んでいた。
台湾の編集者は日本の編集者から影響を受けることも少なくないということで、台湾でも人気の高い『POPEYE』の創刊に携わっている都築さんの『圏外編集者』は台湾の編集者はよく読んでいるそうだ。
モレスキンには取材メモはもちろん、企画のアイデアなどを書き記している。
編集者ならではの原稿と絵コンテ
「普通は取材して素材を集めてからデザイナーとディスカッションをするけど、秋刀魚ではテーマによってデザインを分けているからまず絵コンテを作る」と話す Eva さん。
特集の企画は、編集長である彼女が考えたアイデアをデザイナーやライターを含めて議論をするという。その際に絵コンテを作りページ割りをしてから取材に行くそうだ。
平成30年特集のときの絵コンテ。Eva さんがイメージした絵コンテをもとに、デザイナーやライターと話し合ってこのページが出来上がっている。
取材に欠かせない ICレコーダー
取材には欠かせない ICレコーダーは、ソニーの「ICD-TX650」。薄くて持ち運びにも便利だし、スマートフォンのアプリと違ってボタンを押すだけですぐに録音が始まるので重宝しているとのこと。
この ICレコーダーはクリップのように挟むことができるので、立ちながらの取材の場合、このようにモレスキンに挟んで取材するそうだ。
28歳の若手編集長 Eva さんに色々聞いてみた
――なぜ Eva さんは雑誌の仕事をしようと思ったんですか?
私は元々、大学では雑誌とまったく関係のないことを勉強していたんですが、当時から雑誌の編集に興味があって、いつか雑誌の編集をやってみたいと思っていました。
大学では雑誌を作るサークルに入り、友人たちと一緒に台湾の地方文化を発信する雑誌を制作することになって、私は編集担当として参画しました。たしか2014年よりちょっと前くらいだったかな。台湾でも地方創生のような情報発信が流行った頃です。
雑誌編集は未経験でしたが、どうせやるなら「台湾人でも知らない台湾の魅力を発信したい」と思い、実際にライティングや編集をやってみたのがきっかけでしたね。
――そもそも新卒でいきなり事業を立ち上げることに対して抵抗はなかったんでしょうか?
うーんとくにありませんでした。日本と台湾ではそもそも就職環境が違っていて、日本のような大規模な就職活動というのはありません。みんな留学したり、なにかに挑戦してから就職するといったことも少なくないんです。
なので「新卒で事業を始める」ということに関して違和感を持つ人は少ないし、周りの大人も応援してくれます。起業をするときに政府から補助金が出たり、オフィスもコワーキングスペースとかを使えば良いので、精神面でも金銭面でも会社を立ち上げること自体はハードルが低いように思います。
そもそも大きい会社に入ったとしてもそこまで給料も高くなりませんし、それならばやりたいことをやる方が良い! という選択をする学生も多いんですよ。
――元々は台湾の地方を紹介する雑誌を作っていたということですが、そこからなぜ日本の文化を伝える『秋刀魚』の創刊に至ったんですか?
学生時代に制作していた雑誌の取材で「台湾と日本って歴史的にも文化的にも密接に結びついているんだなあ」と感じたことがきっかけでした。
高雄(台湾南部の都市)にある浜線(はましん、現在は『哈瑪星』と書く)という地域で取材していたときのことです。この地区は日本統治時代に物資が集まる港町として栄えた埋立地で、地区の名前の由来も日本語だったんです。
その浜線を取材した際に、囲碁クラブで遊ばれている囲碁が日本から来たものだったり、剣道場があったりと、この地区で根付いている文化が実は日本から伝来したことが分かりました。
高雄をじっくり歩いてみると、高雄駅が日本統治時代に作られていたり、当時の日本の天皇が高雄に訪れたときの写真があったりして「これって面白いなあ」と。
そして台湾は歴史的にも文化的にも日本と密接な関係なのに、実は日本を紹介する専門誌が存在しないということが分かって『秋刀魚』を立ち上げたんです。
――なるほど。だから台湾と日本を絡めたカルチャー寄りの内容が多いんですね。でもなんでニッチな文化を紹介するのでしょう?
やっぱりありふれたトラベルガイドのような内容ではなく、日本が好きな台湾人が読んだときに、彼らに意外性を感じてほしいですよね。
だからこそ秋刀魚ではこれまで、福井特集とか盛岡特集とか、九州の銭湯を巡る旅など、各号テーマを決めて紹介しています。まだ台湾ではそこまで人気なスポットではないけど、日本でもディープな地域を取り上げてます。
歴史的な背景もありつつ、日本が好きな台湾人も多く、そういった人たちが知らないようなディープな日本を紹介したいと思っているからです。
――たしかに秋刀魚では日本人が見ても面白いと感じる特集が組まれている印象です。どうやって企画しているんですか?
さっきの話と近いんですが、基本的には「日本が好きな台湾人が見たときに意外性を感じられるもの」を中心に特集を組んでいます。
また日本の特集だけでなく、毎年1回「台湾と関係の深い日本もの」についても紹介していて、例えば「梅酒と合う台湾料理」だったり「日本と台湾のB級グルメ対決」を最近では特集しました。
最近では日本人から読まれることも多くなってきているので、日本人にとっても台湾人にとっても「気になる! 」と思ってもらえるような内容にしたいと思っています。
例えばこの「銀座線沿いのカレー」特集。普通のトラベルガイドだと「東京の美味しいカレー」や「神保町のカレー」という特集が組まれますが、その内容だと意外性は少ないですよね。多分日本人にとっても見慣れた内容だと思います。
なので秋刀魚では「銀座線が地図で見ると黄色だから銀座線沿いの黄色い食べ物を特集しよう」という発想からこの特集に至りました(笑)。
大きな出版社だと雑誌は売れる必要があるので「変わった特集」を組むのは難しいと思いますが、私たちはそういったプレッシャーはないので思う存分、自分たちがやりたい特集を自由な発想で特集を組むことができます。
大手の出版社のようにお金はそこまで使えませんが、その分柔軟な発想で企画を考えていますね。
まとめと編集後記
こんな感じで秋刀魚の若手編集長 Eva さんのカバンの中身を紹介してみた。
以前記事でも紹介した『ネイバーフッド台北』という雑誌ではじめて彼女のことを知り、フィールドは違えど僕(トバログ筆者)の目指す方向と似ていると感じた。
また雑誌編集未経験から編集長となったという点から「彼女に話しを聞いてみたい」と思い、今回はこういった形で記事として紹介することができたのは本当に嬉しいこと。
今後も僕ら日本人ではとても思い浮かばないような特集を組んで、読む人を楽しませてくれるはずだ。
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